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国後島を祖父が語り、父が守り、僕がつなぐ 根室の高3「北方領土の日」東京で訴え

 【根室】3世代にわたって北方領土と向き合う一家が、根室市にいる。国後島出身の久保幸雄さん(87)は8歳で視力を失ったが、記憶に残る故郷の姿を語り伝えてきた。その思いに応えるように、息子の浩昭さん(55)は北方領土に関わる歴史的建築物の保存に奮闘し、根室高3年の孫の歩夢さん(17)は北方領土問題を全国に伝える活動に力を入れる。「北方領土の日」の7日、歩夢さんは東京・国立劇場で開かれる「北方領土返還要求全国大会」で演説し、祖父と父の願いを引き継ぐ決意を訴える。(北海道新聞2023/2/6)

 「じいちゃんから島の話を聞いたことが、全てのスタートだと思います」。歩夢さんは、こう振り返る。

 祖父の幸雄さんは家族だんらんの場で、目が見えていた幼少期に見た島の風景を思い出し、繰り返し語った。「浜にはアサリ、海にはカレイ。ホッカイシマエビも大量に取れた。それが故郷、国後島南端のケラムイだった」。幸雄さんの話を聞くたびに「いつか北方領土に行ってみたい」という歩夢さんの思いは強くなり、中学3年の時にビザなし交流で択捉島に渡った。

■訪問が原動力

 目の前には、幸雄さんから聞いていた圧倒的な自然が広がっていた。その時の感動と興奮は、歩夢さんが根室高の部活動「北方領土根室研究会」に参加し、全国各地での出前講座や動画制作などによって、若い世代に領土問題を伝えていく原動力になった。

 歩夢さんの父、浩昭さんは30年以上前から、幸雄さんが生まれた国後島のケラムイと根室終戦直後まで結んでいた海底電信線の中継施設「陸揚(りくあげ)庫」の保存活動に力を入れてきた。陸揚庫は一昨年、北方領土関係の建築物で初めて国の登録有形文化財になった。

 浩昭さんは「電信線が父の故郷につながっていたと知ったことが、保存活動のきっかけだった。おやじから島の豊かさを聞いていたから、そう思ったのだろう」と語る。浩昭さんは幼いころ、北海道地図の国後島の位置に大きく「宝島」と書いたことを今も覚えている。父から子へ、子から孫へ。浩昭さんが保存に取り組む姿も、歩夢さんの高校での活動を後押しした。

 元島民の平均年齢は昨年末に87・2歳に達し、返還運動の継承は大きな課題だ。しかし、昨年2月にロシアがウクライナに侵攻し、日ロ間の対話さえ困難になったことで、歩夢さんは同世代の北方領土への関心がこれまで以上に薄れてしまったように感じている。

■3世代の願い

 「まず北方領土そのものを広く知らせ、元島民の記憶をつなごう」。7日の北方領土の日の全国大会では、幸雄さん、浩昭さんと3世代共通の願いを訴える。

 歩夢さんは4月から札幌の専門学校に進学し、根室を離れる。「国後島に行くチャンスが生まれたら、じいちゃんが愛した風景を自分の目で見てみたい」。今後も領土問題を伝える活動は続けていくつもりだ。

 「息子と孫は誇り。今は領土返還は難しいだろうが、いつかきっと島は返ってくる」。幸雄さんは、顔をほころばせて言った。(武藤里美、松本創一)