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旧ソ連兵の助けで遺骨回収 歯舞群島多楽島出身・岡本たかさん(91)=根室市<四島よ私たちの願い 日ロ交渉停止>25

 1970年9月。戦後初の歯舞群島多楽島への北方領土墓参に参加した同島出身の岡本たかさん(91)=根室市=は、島の墓地で同朋(どうほう)の遺骨を見つけた瞬間を今でも覚えている。付き添いの旧ソ連兵は遺骨の持ち帰りを快諾。「みんなのところに連れて帰れる」。岡本さんは涙した。(北海道新聞根室版2023/1/19)

 岡本さんは島西部の蒲原磯出身。自身は旧ソ連侵攻直後の45年(昭和20年)秋に同島を脱出したが、最後まで島に残った島民がソ連兵に荒らされたままになっていた寺の中のお骨をたるにまとめ、島中部の古別墓地に埋めたと聞いていた。

 25年ぶりに上陸した島にかつての面影はなかったが、墓地の一部に草が生えず、不自然にくぼんだ場所があることに気づいた。「ここだ」。岡本さんは直感で気づいた。付き添いのソ連兵に頼み、ほかの参加者と手で掘ると、ぼろぼろになったたると真っ白い骨が見つかった。「よかった」「親に報告できるよ」。泣きながら手を取り合った。遺骨を抱いて根室港に戻ると、多楽島出身の知人たちに大喜びされた。

 64年から始まった墓参で、遺骨を持ち帰れたのはこの回が初めて。「ここまでさせてくれるとは思っていなかった。ソ連兵が日本人を思いやってくれた」と考えると、岡本さんは温かい気持ちになった。だからこそ、現在ロシアがウクライナに侵攻し、残虐な行為を重ねているとニュースを聞くと苦しくなる。「ロシアという国は、人道なんて関係ない国になってしまったのだろうか。あのソ連兵たちはあんなに優しかったのに」(武藤里美)