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海底電線 つながりの象徴 陸揚庫保存会の会長・久保浩昭さん(54)=根室市<四島よ私たちの願い 日ロ交渉停止>14

 海峡の先に北方領土国後島を臨む根室市西浜町ハッタリ浜。9月中旬に市が実施した「根室国後間海底電信線陸揚(りくあげ)施設(陸揚庫)」周辺の発掘調査に、小さなスコップで砂利を掘り返すボランティアの男性がいた。国後島元島民2世の久保浩昭さん(54)で、市民団体の陸揚庫保存会会長を務めている。(北海道新聞根室版2022/11/5)

 陸揚庫は終戦直後まで根室国後島をつないだ通信用海底ケーブルの中継施設。コンクリート造だが、築90年近くたっているとみられ、壁が所々落ちるなど保存状況は良くない。施設は昨年10月、国の登録有形文化財となり、調査と保存、活用の取り組みが本格化している。久保さんは「やっとここまで進んだ。感慨深い」と語る。

 久保さんは高校生のころからこの建物に注目。20年ほど前から保存活動を始め、保存会会長としてシンポジウムを開くなどしてきた。ケーブルの一部は根室市歴史と自然の資料館や道立北方四島交流センターにも展示されている。

 ケーブルは、元島民の父の幸雄さん(87)が暮らした国後島南端の海岸「ケラムイ」につながっていた。父の故郷と根室をつなぐ線でもあるだけに保存への思いは強く、ビザなし渡航でもケラムイを訪れた。「四島に日本人が住んでいたことを示す目に見える証拠。忘れないためにしっかりと残さなくては」と語る。

 日ロ関係が悪化し、日本人が北方領土の地を踏むのは難しくなった。それでも久保さんは「いつか日本人とロシア人が共生する地域を北方領土につくりたい。その象徴として陸揚庫を語り継いでいきたい」と夢を語る。(松本創一)