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後継者育成し伝え続ける 歯舞群島多楽島出身の語り部・高岡唯一さん(87)=羅臼町<四島よ私たちの願い 日ロ交渉停止>13

 若い世代や旅行者に北方領土の記憶を伝え続ける歯舞群島多楽島出身の高岡唯一さん(87)は、羅臼町で活動する最高齢の「語り部」だ。返還への願いを語る原動力は「一人でも多くにロシアという国を知ってほしい。体験者が伝えていかなければならない」という強い思いだ。(北海道新聞根室版2022/10/29)

 活動では「10歳の時、銃を構えたソ連兵が家に土足で押し入ってきた実体験を必ず話す」という。兵士たちは怒号を上げて仏壇をかき回し、遺影や供物が散乱した。母の後ろに隠れたが、母の背も震えていた。77年を経た今も薄れない記憶だ。

 一方、30年前にビザなし渡航で訪ねた択捉島の民泊先で、シベリア出身の4人家族からもてなしを受けたことも記憶に残る。夕食でロシア料理を囲み、住人の男性が「島を追われた人のことを考えると心が痛む」と言ってくれ、胸が熱くなった。

 語り部として、旧ソ連とロシアによる理不尽な占拠と、現島民個々人の温かさを伝える。新型コロナウイルス対策の行動制限が緩和された今年は、町内で計12回、修学旅行生らに体験を語った。

 以前は道外でも講演活動を行っていたが、体への負担も考え、「最近は町内に来てくれた人を対象に講演している。もう2、3年は続けたいが、耳が遠くなり記憶も曖昧になってきた」と話す。

 高岡さんは後継者の育成のため、自身が活動する際、島民2世、3世に同席してもらっている。「彼らをできるだけ後押しし、北方領土問題を永く伝え続けなくてはならない。旅行者や修学旅行生が町内に話を聴きに来やすいよう、支援を手厚くしてほしい」(森朱里)