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北方四島の共同経済活動、単独事業化へ動くロシア 続く制裁、実現は見通せず

 ロシア政府が、日本と検討を進めていた北方四島の共同経済活動を、自国事業に置き換える動きを進めている。今月上旬に極東ウラジオストクで開かれた東方経済フォーラムでは、優先事業の一つだった海産物養殖の事業化を決定。ウクライナ侵攻を巡り対立する日本との協議が途絶える中、政府主導で開発を進める方針をアピールした。ただ、侵攻と制裁の長期化で国力の低下は避けられず、実現性には疑問の声も出ている。(北海道新聞2022/9/19)

 「クリール諸島(北方領土と千島列島)の養殖業は雇用を生み、予算に収入をもたらす」。ロシアメディアによると、四島を事実上管轄するサハリン州のリマレンコ知事は7日、フォーラムの場で強調した。

 この日、同州とロシア漁業庁などは養殖企業の設立に協力する協定を締結。「必要な全てのサポートを行う」としており、養殖場は5万ヘクタール以上を目指し、国後、色丹両島周辺海域が有望な候補地だという。

 共同経済活動は2016年12月、当時の安倍晋三首相がプーチン大統領と検討開始に合意。今回、ロシア政府が事業化を決めた海産物の養殖は、両政府が決めた5項目の優先事業の一つで、根室市など四島の隣接地域から経済活性化への期待が高かったものだ。

 しかし、事業の具体化に向け、四島がロシア領と認めた形にならないよう「特別な法制度」による実施を目指す日本側と、自国法を前提とするロシア側が譲らず協議が難航。ウクライナ侵攻を受け日本が対ロ制裁を発動すると、ロシア外務省は3月、協議から一方的に離脱すると表明した。

 優先事業候補は他に「ごみ減容対策」「観光ツアー開発」「風力発電の導入」「温室野菜栽培」があった。だが、観光ツアーに関して、ロシアではコロナ禍と制裁で海外旅行を断念した国民が国内旅行に流れ、四島への訪問が大幅に増加。日本人観光客や投資の呼び込みを期待する声は薄れている。フォーラムでは、ロシア企業と州政府などが択捉島のスパ付き四つ星ホテルの建設に合意した。

 ごみ減容対策についても、ロシア側は21年1月、国後島のごみ焼却施設の設計を国内企業が落札するなど、単独で事業化を目指す動きを進めている。サハリンメディアは5日、州政府の取り組みとして23年にクリール諸島でも資源ごみの分別収集を始める方針だと伝えた。

 ただ、ロシア政府は侵攻による戦費の増加や欧米の制裁の影響で、経済・財政力の長期的な低下は避けられない。プーチン政権は今年3月、クリール諸島に大規模な免税制度を導入する法律を発効させ、国内外から民間投資の呼び込みを目指すが、欧米との対立が続く中、海外企業の進出につながるかは不透明だ。

 チェクンコフ極東・北極圏開発相は4日、国営ロシア通信に対し、免税制度を活用してロシア企業8社が進出し、23年末までには35社に上ると説明。しかし、択捉島の地元紙は14日、「(去年浮上したリゾート開発計画は)1年たって話は消えた。本当にできるのか見なければならない」と指摘した。(渡辺玲男)