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北方四島との歴史感じて 根室国後間海底電信線陸揚庫 

(北海道新聞「支局長だより」2022/9/11)

 根室市西浜町ハッタリ浜。北方領土国後島を望む海岸の一角に高さ4㍍弱、床面積20平方㍍ほどの鉄筋コンクリートの建物がある。壁はところどころ落ち、屋根の一部に雑草が生えている。この建物が、昨年10月、国の登録有形文化財となった。

 正式名称は「根室国後間海底電信線陸揚施設(陸揚庫)」。1935年(昭和10年)ごろ建設された可能性が高く、通信用海底ケーブルを陸上につなぐ中継施設として戦前まで使われていた。床には開口部があり、ケーブルは38㌔先の国後島南部ケラムイ崎へ、さらに択捉島最北の蘂取まで500㌔以上をつないでいた。

 北方領土を望む視界、オホーツクの潮風、北方領土まで自由に行き来する鳥たちの声--。崩れたかけた建物の前に立つと海峡を人々が盛んに行き交った時代に思いをはせることができる。

 (中略) 韓国で、38度線近くに残る、北朝鮮の軍用貨物車や旧駅舎などを訪れるツアーに参加した。英国北アイルランドでは、プロテスタント系とカトリック系の居住区を分けた「平和の壁」を見た。それらが忘れられないのは、展示や資料には収まりきれない、歴史や物語を語る力があるからだろう。

 ビザなし渡航など日ロの交流が難しくなった今、北方領土を直接感じることができる数少ない遺構として、陸揚庫の存在意義はさらに高まるはずだ。(松本創一)