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北方領土・貝殻島コンブ漁 ロシア国境警備隊による検査急増

ロシアと日本の関係悪化が北海道東部沖合での漁業に影響を及ぼしている。日本の北海道新聞は「ロシア国境警備隊による検査(※臨検)が急激に増えた」と報じた。特にシグナリヌイ島(貝殻島)周辺でのコンブ漁での検査が急増。北海道水産会によると、昨年6月~8月に87隻だったのが、今年は6月から7月で195隻に上り、2.2倍に達した。漁業者によると、検査を行うロシア船は1隻から2隻になり、国境警備隊員がスマートフォンの写真までチェックするなど「確認事項が細かくなった」と不満を漏らした。(サハリン・インフォ2022/9/6)

貝殻島コンブ漁、ロシア「臨検」急増 制裁で関係悪化が影

(北海道新聞2022/9/6)

 ロシアのウクライナ侵攻に伴う日ロ関係の悪化が、道東漁業に暗い影を落としている。ロシア国境警備局が日本漁船を点検する「臨検」が急増し、北方領土歯舞群島貝殻島周辺でのコンブ漁では、すでに昨年の倍以上の漁船が臨検を受けた。ロシア主張排他的経済水域EEZ)を航行する道東沖サンマ棒受け網漁を含め、これまでに拿捕(だほ)された漁船はないが、ロシアの締め付けに根室管内の漁業者からは不安の声が漏れる。

 「異常事態。連日、かなりの数の船が臨検に遭っていた」。7月7日に今年の操業を終えた貝殻島のサオマエコンブ漁に出漁していた根室市の60代漁師は、当時の様子をそう証言する。

 臨検は、日ロ中間ラインのロシア主張水域側でロシア国境警備局が操業承認書を点検するなどの行為を指す。北海道水産会(札幌)などによると、6~7月に臨検を受けたコンブ漁船は延べ195隻。昨年6~9月は87隻で、すでに昨年の2・2倍に上る。

 出漁した漁師によると、従来1隻だったロシアの臨検ボートが今年から2隻に増え、国境警備局員が漁船に乗り込み、乗組員のスマートフォンの写真を見せるように要求する例もあったという。根室市の50代漁師は「臨検時の確認事項が細かくなった。今までより緊張感があった」と振り返る。

 貝殻島のコンブ漁期は9月末まで。今月からアツバコンブ漁が始まり、臨検を受ける漁船が延べ200隻を超えるのは確実とみられる。

 北方四島周辺の水域では、8月10日に解禁された道東沖サンマ漁主力の棒受け網漁の漁船がロシア主張EEZを通過しているが、全国さんま棒受網漁業協同組合(全さんま、東京)によると、臨検を受けた報告はなくトラブルも起きていない。

■訓練の活発化も

 一般的に、EEZ内は自由に航行できる一方、沿岸国が違法操業を取り締まる権利を持つ。ロシア主張EEZでは、ロシア側による臨検の強化やミサイル訓練の活発化の可能性が指摘されている。根室市内の大型船主は「日ロ関係が悪化する中、ロシア側に拿捕されたら人質のようになりかねない。油断せずに漁を続けたい」と気を引き締める。

 国後島周辺では、ホッケ刺し網漁の安全操業の解禁日が9月16日に設定されている。昨年のホッケ刺し網漁には羅臼漁協(根室管内羅臼町)所属の13隻が出漁。約3カ月間の期間中、これまでで最多の延べ100隻が臨検を受けた。

■増加「死活問題」

 臨検は操業に影響を及ぼさない「見学」との位置づけだが、順番待ちで数時間かかる場合もあり、毎年、羅臼漁港の市場で行われる競りまでに帰港できない船も出ている。今年は昨年より2隻少ない11隻が出漁を予定する。ある漁師は「ホッケは鮮度が落ちやすい。(臨検の増加は)漁師には死活問題だ」と漏らす。

 日ロの漁業協定に詳しい北海学園大の浜田武士教授は「拿捕のリスクが高まっている。漁業者はこれまで以上に慎重な漁が求められる」と指摘している。(川口大地、小野田伝治郎、今井潤)

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政府、漁業協力維持に課題 拿捕あれば引き渡し協議難航か/出漁減れば援助金、世論が反発も

 日本政府はロシアのウクライナ侵攻以降、対ロ経済制裁を発動する一方、漁業協力は維持してきた。ただ、日ロ関係が悪化する中で拿捕(だほ)などのトラブルが起きれば対応が難しくなる懸念があるほか、出漁する漁業者が減れば協力の継続に世論の理解が得にくくなる恐れもあり、臨検の増加に神経をとがらせている。

 外務省関係者は5日、貝殻島周辺のコンブ漁で臨検が急増していることについて「状況を注視している。ロシア側とも対話し、悪化しないよう話をしていく」と述べた。現時点でロシア側に申し入れなどは行っていないという。

 日本政府は、ロシアとの漁業協力については「出漁したい漁業者がいれば環境を整える」(官邸筋)として、ロシアの侵攻が続く中でも、協力を続ける姿勢を示してきた。ロシア外務省が北方四島周辺水域での日本漁船の安全操業に関する協定の履行を停止した問題でも、日本政府はロシア側が求めるサハリン州との協力事業に関する援助金約1億5千万円を支払う方向で調整している。

 ただ、ロシアは日本を「非友好国」に認定するなど対日強硬姿勢を強めており、もし拿捕などが起きれば、引き渡し協議などは難航が予想される。また、漁業者が拿捕などを恐れて出漁を控えれば「制裁対象国に大金を支払っても、誰も出漁しないとなれば、世論の反応がどうなるか」(日本側外交筋)との声も出ている。(荒谷健一郎、佐々木馨斗)