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残された時 2世もわずか 両親が歯舞群島多楽島出身・中村悟さん(73)<四島よ私たちの願い 日ロ交渉停止>3

 「2世にも残された時間は少なくなっている。元気なうちにもう一度島に行きたい」。7月下旬、東京都立川市から根室を訪れた歯舞群島多楽島元島民2世の中村悟さん(73)は焦る気持ちを吐露した。根室訪問は、元島民や子孫らが船上から先祖を供養する洋上慰霊に参加するためだ。(北海道新聞根室版2022/9/2)

 高校卒業と同時に根室を離れ、東京で機械工として就職。長年、四島へのビザなし渡航の参加は難しかった。68歳で仕事が一段落した2017年、初参加の願いがかない、両親の故郷である多楽島を訪れた。「自然が豊か。ここが親が暮らしてた場所なのか」。天候が悪く滞在時間も短かったので、再訪への思いを強くした。

 ところが新型コロナウイルスの感染拡大、ロシアのウクライナ侵攻による日ロ関係悪化により、ビザなし渡航は当面見送りになった。「もっと頻繁に島に行けるかと思ったが、これまで以上に遠い存在になってしまった」

 両親の墓は根室にある。島から引き揚げた父、勇一さんはタラなどを取る漁師だった。領土問題が身近にあると感じたのは小学生の時。漁に出た父が旧ソ連に拿捕(だほ)されたからだ。「古里の近くで漁をするだけなのになぜ危険な目に遭うのか」と怒りを感じた。

 年齢を重ね、「家族が過ごした島を見たい。少しでも島の近くに」という気持ちは強まっている。「体力的に動き回れるのはあと数年。それまでに再び島へ行き、孫にも先祖が生活していたことを教えたい」と語る。

 中村さんは洋上慰霊の船上で手を合わせ、両親に誓った。「次は島に上陸した報告に来るからね」

 元島民2世の平均年齢は58.9歳。高齢化は確実に押し寄せている。(川口大地)