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北方四島安全操業 サハリン援助金支払いへ 漁業者権益を優先 解禁日の出漁は不透明

 ロシア外務省が北方四島周辺水域での日本漁船の安全操業に関する協定の履行を停止した問題で、日本政府がロシア側が求めるサハリン州との協力事業に関する援助金約1億5千万円を支払う方向で調整していることが30日分かった。ロシアがウクライナ侵攻を続ける中、政府内では支払いに慎重意見があったが、漁業者らの権益を守ることを優先する方針。ただ、日米欧の制裁が続くロシアへの送金ルート確保などの課題もあり、9月16日解禁のホッケ刺し網漁までに調整が間に合うかは不透明だ。(北海道新聞2022/8/31)

 日ロ外交筋によると、日ロ両政府はすでに援助金の支払いに関する合意文書案を作成。官邸筋は30日、「経済制裁をしていようと、地元の漁業者が漁をできるようにすることが大切だ」と述べた。

 日ロ関係の悪化を受け拿捕(だほ)などのトラブルが起きる懸念もあり、日本政府は漁業者の出漁の意思や、世論の動向を見極めて支払いを最終判断する。

 安全操業は1998年に日ロ両国間で調印した協定に基づき、ロシアが実効支配する四島の管轄権に触れない形で行われてきた。

 サハリン州への援助金の支払いは、協定に基づく操業条件には入っていないが、政府は2003年度を除き毎年支出しており、ロシア側が今年も協定履行の条件として支払いを求めていた。

 一方、ウクライナ侵攻を受け、日本政府は「サハリン州への援助金と安全操業の実施は直接リンクしない」(政府高官)として、21年度分の支払いを見送ってきた。援助金は同州の教育や医療などの支援に充てられてきたとされ、欧米と協調して対ロ制裁を行う中で日本が支払えば、批判を受ける懸念があったからだ。

 だが、このまま支払いを拒否すれば協定を破棄される恐れがあることから、「固有の領土」である北方四島周辺水域で操業する特別な枠組みを維持し、漁業者の権益を守ることが重要だと判断。今年の操業条件として昨年12月に合意したロシア側への協力金2130万円と2110万円相当の機材供与についても、支払う方向で調整している。

 しかし、制裁で主要な国際決済網から排除されたロシアには、これまでの送金ルートが使えないため、制裁に抵触しない形でどのように支払うか調整が続いている。(文基祐、松下文音