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せめて墓参を、こぼれた涙 歯舞群島志発島出身の元建具職人・木村芳勝さん(87)=根室市<四島よ私たちの願い 日ロ交渉停止>1

 霧の向こうに北方領土の島影が見えると、歯舞群島志発島出身の木村芳勝さん(87)=根室市=の目から涙がこぼれた。「島が懐かしい。島に帰りたい」。故郷を旧ソ連に奪われ77年目の夏。4日の洋上慰霊でのことだった。ロシアのウクライナ侵攻で故郷の島を踏む機会が見通せなくなり、こみ上げる島への思いはいっそう強まる。(北海道新聞電子版2022/8/27)

 旧ソ連軍は1945年(昭和20年)8月28日に択捉島に上陸を開始。9月上旬には歯舞群島に至った。旧ソ連兵は木村さんの家にも土足で上がり込み、人が隠れられそうな所に銃剣を突き立てた。時計や指輪を奪い喜ぶソ連兵の姿は、当時10歳だった木村さんの目に焼き付いている。

 その3年後の48年9月、一家は島から強制退去。蔵には出荷を待つコンブが残っていた。「すぐに戻れる」という期待は裏切られ、再び志発島に上陸できたのは26年後、日ロビザなし渡航を利用した74年。2019年まで9回訪問した。

 島にはかつての自宅や建物は無く、草むらが広がる。それでも訪問を重ねるうち、自宅や学校、海で採れたコンブや秋サケなどの様子が徐々に思い出された。3人のきょうだいの墓には「元気に来たぞ。また来られるよう、祈って」と手を合わせた。

 木村さんは今、小学生の孫を志発島に連れ、経験を伝えたいと考えている。しかし、ビザなし渡航新型コロナウイルスの影響で2020年から中止。今年は日ロ関係の悪化で見送られた。「次の世代につないでいきたい。でも、このままでは島に行きたいと思ったまま、元島民は死んでいく」。せめて人道的な立場から墓参だけでも再開できないのか―。木村さんは切望する。(武藤里美)

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 旧ソ連軍が1945年8月28日に北方領土に侵攻してから77年を迎えます。ロシア政府は3月に対ロ制裁への対抗措置として日本との平和条約交渉を拒否。ビザなし渡航や日ロ間の漁業交渉の進展も難しい局面を迎えています。元島民やその家族、四島周辺で操業してきた漁業関係者などの四島への思いを随時掲載します。

「ここが自分の家だ」と、志発島の地図を指さす木村芳勝さん