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サンマ船「最短ルート」安全か ロシア主張EEZ航行、根室不安 8月解禁

 漁業基地・根室を支える道東沖サンマ棒受け網漁が8月10日に解禁されるのを前に、地元漁業関係者が懸念を強めている。資源減少が続く中、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う日ロ関係悪化の影響で、ロシアが主張する排他的経済水域EEZ)を航行する際の安全性が不安視されるためだ。ただ、この海域を迂回(うかい)すると燃料費がかさみ、輸送日数増加による鮮度低下も想定され、漁業者は航行路選定に頭を悩ませる。(北海道新聞2022/7/31)

 「サンマ漁船の航行の自由は守られるのか。漁業者はどうしたらいいのか」。7月上旬、根室市内での会合で、サンマ大型船主の飯作鶴幸(はんさくつるゆき)さん(79)は日ロ関係悪化による影響に不安を吐露した。

 近年のサンマ棒受け網漁の漁期序盤(8~9月)の主漁場は、サンマ水揚げ量12年連続日本一の根室市・花咲港から東に千キロ以上離れた公海。従来使ってきた直線ルートはロシア主張EEZを通過する。

 この海域は日ロの主張が食い違うものの、一般にEEZ内は自由に航行できる一方、沿岸国が違法操業を取り締まる権利を持つ。ある船主は「サンマ積載船が帰港途中にロシア主張EEZを通過する場合、臨検に『この海域で漁獲した魚ではない』と証明するのは困難。ロシア側の考え一つで臨検され、拿捕(だほ)されてしまう」と不安を漏らす。

 一方、迂回ルートは距離と燃料代がロシア主張EEZ通過ルートの1・3倍、日数は1・4倍かかり、魚価に影響する可能性もある。漁期序盤の漁場から花咲港までの距離は、直線なら三陸より400キロ近いが、迂回すると100キロ差。大消費地から遠い花咲の優位性は低くなる。

 根室市の石垣雅敏市長は「漁業者だけでなく水産加工業者、魚を輸送する運搬業者など根室の産業全体に関わる」と危惧。市幹部は7月上旬、サンマ漁船が多い岩手県長崎県などに出向き、漁業者などに花咲港の利用継続を要請した。

 そもそも近年、サンマの資源量は減少している。昨年の全国の水揚げ量は1万8291トンで、初めて2万トンを下回り、3年連続で過去最低を更新。ただでさえ厳しい操業に、日ロ関係悪化が追い打ちを掛けている格好だ。

 一方、ロシア主張EEZ内の航行を巡っては、北方領土の主権も絡み、水産庁などは明確な方針を示していない。今後も全国さんま棒受網漁業協同組合(全さんま)主催の会議の機会などに漁業者同士で漁のあり方が話し合われるとみられるが、漁業者らは「各船や船団の判断に任されるのでは」と警戒。8月からの漁期序盤について、小型船船主からは「断念せざるを得ない」との声も漏れる。

 北方領土貝殻島周辺のコンブ漁では今年、ロシア側による臨検が増えている。海洋安全保障に詳しい東海大海洋学部(静岡市)の山田吉彦教授は、現状でロシア主張EEZで安全性を担保するのは難しいと指摘。対ロ制裁を強める政府の外交方針に翻弄(ほんろう)される漁業者に対し「国は特例として燃料代を補助するなど対応をすべきだ。漁業者を指導する役割を果たしてほしい」と指摘している。(武藤里美、川口大地)

<ことば>サンマ棒受け網漁 夜、光に集まる習性を利用してサンマを棒受け網に誘導し、漁獲する。漁期序盤の主漁場は花咲港から東に千キロ以上の海域で、その後は南下し、年末にかけて三陸沖が中心となる。10トン以上20トン未満の小型船は8月10日、20トン以上100トン未満の中型船は15日、100トン以上の大型船は20日に解禁される。