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ロシア、北方四島開発てこ入れ ユジノ便大幅増、ウラジオ便も開設準備 侵攻影響

 ウクライナ侵攻を続けるロシアが、実効支配する北方四島の開発をてこ入れしている。今夏にサハリン州の州都ユジノサハリンスクとの直行便を政府主導で大幅に増やし、新たに極東ウラジオストクとの直行便の開設も計画。増加する観光客と島民の利便性向上を理由にしているが、侵攻の影響で冷え込む国内外の民間投資を喚起する狙い。一方で長期的な開発計画では投資の減額も決めており、民間に頼らざるを得ない苦しい事情もありそうだ。(北海道新聞2022/7/31)

 四島への渡航は空路が主流で、現在は国後、択捉両島とユジノサハリンスクとの直行便が1日1往復する。地元メディアなどによると、州政府と運航するオーロラ航空が協力し、9月までに少なくとも国後便を計4往復、択捉便を計14往復それぞれ増やす。

 ロシア政府は近年、四島の観光地化やインフラ整備に注力。今夏はコロナ禍が以前に比べ沈静化したことに加え、制裁の影響で海外との航空路線が大幅に減っている事情から、国内観光への関心が高まっている。

 ロシア極東・北極圏発展省は、今年の空路利用客は2021年の8万5300人から15%の増加を見込む。四島への訪問客の増加で、リマレンコ州知事は通信アプリ「テレグラム」で「チケットがないと島民から苦情がくるようになった」とし、住民の移動にも支障がでる状況だと強調する。

 同省は7月上旬、ウラジオストク択捉島線の年内開設の計画も公表した。約60万人が住む極東の主要な経済都市との直行便開設でアクセスを大幅に改善し、人やモノの往来を活発化させたい狙いだ。政府系公社が、民間による千島列島の観光開発計画を公表するなど、政府をあげて四島の魅力アピールに余念がない。

 ロシア政府は3月、四島などに国内外から投資を呼び込むため、大規模な免税制度を導入。極東開発を担当するトルトネフ副首相は「年内に20社が事業を始める」としている。

 ただ、観光客が増えても、開発の行方は不透明感が漂う。ロシア政府は6月、北方四島などを開発するクリール社会経済発展計画(16~25年)について、投資総額を従来比26%減となる約594億ルーブル(約1485億円)に下方修正。長期的に侵攻の戦費がかさみ、外貨獲得も難しくなるとみている可能性がある。

 実際に択捉島では大規模な道路整備事業が4月以降、止まっている。対ロ制裁を発動した日本への対抗措置として、ロシアは両国が検討を進めていた四島での共同経済活動も停止した。

 トルトネフ氏は7月上旬に同州を訪問。「ロシアはこれまで投資に対してオープンであり、現在もそうだ」と民間投資に期待を込めたが、欧米の厳しい対ロ制裁が続く中、国外からの企業進出は期待できないとみられる。(文基祐)