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北方領土元島民の洋上慰霊 間近の故郷に「元気なら次も参加」

 「晴れていれば見えるはずなのに」。北方領土の元島民らでつくる千島歯舞諸島居住者連盟と北海道が共同で実施している3回目の洋上慰霊が行われた27日、納沙布(のさっぷ)岬から約4キロ沖合に停泊した船上では、元島民らからそんな会話が聞こえた。ロシアのウクライナ侵攻で北方交流が見送りとなり、島民の思いを受けて洋上から先祖に届けられた鎮魂の祈り。きょうだいの慰霊に訪れた元島民の村椿忠義さん(82)=富山県在住=は「元気なら次も参加したい」と郷愁への思いを語った。(Iza 2022/7/27)

 船舶「えとぴりか」で行う洋上慰霊は、7月23日から8月10日まで根室港発着の「歯舞群島コース」(4回)と「国後島コース」(6回)の全10回で、合計約330人が参加する予定という。

 3回目の27日は元島民とその家族ら29人が歯舞群島コースに乗船。あいにくの海霧で島の姿は見えず、根室半島先端の納沙布岬から約4キロ地点の沖合に停泊し、船上デッキに設置した献花台で献花を行った。

 歯舞諸島多楽島(たらくとう)に5歳ごろまで暮らしていたという村椿さんは7、8年前の北方交流事業が最初で、今回は3年ぶり3度目の参加という。

 船上では参加者全員が水晶島のある方角に向かって献花。その祭壇前で村椿さんは、数珠を手にぎゅっと目をつむりながら小さな声で読経を唱えた。「子供のころに姉と妹が島で亡くなった。その慰霊のために来たんです」。

 同じ富山県内には元島民の仲間もいるが、高齢で来られない人もいた。「元島民の参加が少なくなったと実感する。私自身はできれば来年も参加したいが、現地に来るまでが結構大変」と苦笑する。

歯舞諸島多楽島(たらくとう)で亡くなったきょうだいのために読経を唱える村椿さん

 

 群馬県の井田雅彦さん(46)は数年前に亡くなった父親が歯舞諸島志発島(しぼつとう)にゆかりがあるといい、子供にもそのルーツを教えようと妻と子供の家族5人で洋上慰霊に参加した。

 「父は島が侵攻されたことをかなり恨んでいて、昔の話は全く話をしてくれなかった。たった一度、『6歳の時、1人で富山県の実家に戻ってきた』と聞いたのは私が6歳の時だった」と振り返る。

 2年前には飛行機による上空慰霊に参加。北方領土の姿はきれいに見えただけに、今回は「霧で見えず残念。それでも6歳の長男が自分のルーツにつながる島のことを知るきっかけになった」と笑顔で語った。

 慰霊の旅を終え、実家に戻ったあとは「墓前に『長男の2人でちゃんと島を見てきた』と父に報告したい」という井田さん。今後も継続的に参加したいとし、「長男たちが成長するなかで島への思いが芽生えればうれしい。そして島が戻ってきたときには、自分たちの島として使えるようになってほしい」と話した。

家族で船上の慰霊式に出席した井田さん