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サハリン援助金、日ロ平行線 北方四島周辺安全操業 日・協定と無関係/ロ・支払い不可分

 北方四島周辺水域での日本漁船の安全操業に関する日ロ政府間協定を巡り、両政府の主張が平行線をたどっている。ロシア側は、四島を事実上管轄するサハリン州への援助金を日本が例年通り支払うことが協定履行に「不可分」と主張。日本側は、援助金は協定と直接関係ないとしてロシアのウクライナ侵攻を背景に支払いに慎重姿勢を崩さない。ただ、援助金は1998年の協定締結に合わせて始まって以降、ほぼ毎年度支払っており、専門家や漁業者からは日本政府の対応を疑問視する声も出ている。(北海道新聞2022/6/15)

 「間接的に、協定に基づくわが国漁船による操業の実施に資する面があるのは事実だが、ロシアが主張するような協定の下での操業に対する支払いではない」。林芳正外相は14日の記者会見で、サハリン州への援助金について日本の対応の正当性を改めて強調した。

■ほぼ毎年度供与

 サハリン州との協力事業は、州政府による障害者用バスや教育用パソコンなどの購入を日本が援助金を供与することで支援する仕組みだ。日本政府はロシアのウクライナ侵攻を受け、約1億5千万円を予定していた2021年度分の支払いを見合わせている。ロシア側は安全操業の協定履行の条件だとして日本が支払うまで停止するとしている。

 援助金の供与は、協定に基づきロシア側に支払う協力金や機材供与と異なり、操業条件や協定の条文には含まれていない。ただ、援助金は協定調印を控えた1997年12月、ロシア側が要求し、日本側も四島海域で日本漁船が操業することへのサハリン州内の不満を抑える思惑などから合意した経緯がある。日本側は当初初年度だけの想定だったが、2003年度を除き継続して供与してきた。

 日本側が支払いを続けてきたのは、協定がロシアが領海と主張する四島周辺で、双方の管轄権に触れない形での日本漁船の操業を認めた特別な枠組みだからだ。援助金と安全操業が事実上、パッケージ化していた実態は否めず、日本外務省幹部は「いろいろな経緯があるのは事実だ」と話す。

■早期解決望む声

 日ロの漁業協定に詳しい北海学園大の浜田武士教授は、昨年の操業条件の交渉でもロシア側に支払いを約束したはずだとし、「『約束をほごにした』と言われても仕方がない」と政府の対応に疑問を投げかける。

 9月から漁期となるホッケ刺し網漁で出漁を予定する根室管内羅臼町の漁業者は、サハリン州への援助金について「政府の立場は分かるが、ロシア側はそれも含めて安全操業の枠組みだと考えているのだろう。払うものは払い、どこかで妥協してくれないと安全操業は続かない」と指摘。「自分たちはぎりぎりのところで暮らしている。国には動いてほしい」と早期解決を願った。(文基祐、佐々木馨斗、田中華蓮)