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元島民「純粋に戻りたいだけなのに」日本人63人がロシア入国禁止

 ロシア外務省が日本人63人の入国禁止を発表したことを受け、対象に含まれた千島歯舞諸島居住者連盟の脇紀美夫理事長(81)=国後島出身=は5日、北海道新聞の取材に「われわれは純粋に島に戻りたいと思っているだけ。こういうふうになるのは残念だ」と語った。対象者の約3分の1は北方領土問題に関わる団体トップや衆参沖縄北方問題特別委員会の国会議員で、領土返還要求を認めないロシア側の立場が反映されたとみられる。(北海道新聞2022/5/6)

 ロシア外務省は4日、ウクライナ侵攻を理由に対ロ制裁を発動した日本への対抗措置として、岸田文雄首相ら閣僚8人を含む入国禁止の対象者リストを発表。脇氏のほか、北方領土返還運動に取り組んできた北方領土復帰期成同盟(札幌)の佐伯浩会長と、北方領土問題対策協会(東京)の諸星衛理事長が含まれた。

 返還運動団体トップが標的にされたことについて、脇氏は「政治的な国と国の問題でやっているので、われわれとしてはいかんともしがたい」と話した。ロシア側が北方四島とのビザなし交流も停止したことについて「一日も早く元の形に戻ってほしい」と願った。

 沖縄北方問題特別委の衆参国会議員は委員長と理事ら計18人が対象で、4人が道内選出。同委が北方領土問題を主に所管していることが理由とみられる。

 政府関係の対象者で目立ったのが安保・防衛関連で、防衛省岸信夫防衛相のほか、副大臣政務官2人の政務三役全員と山崎幸二統合幕僚長が対象になった。プーチン大統領最側近のパトルシェフ安全保障会議書記の交渉相手となる秋葉剛男国家安全保障局長も含まれ、ロシアが日米同盟を安保の基盤とする日本への「敵視」を強めていることがうかがえる。

 一方、ロシア経済分野協力担当相を兼務する萩生田光一経済産業相はリストから外れ、経済関係の対象者は経済同友会桜田謙悟代表幹事1人にとどまった。日本企業がロシアでの石油・天然ガス事業を維持していることなどを踏まえ、経済協力は継続したい意図もありそうだ。

 ロシア外務省は声明で日本が善隣関係を「解体した」と一方的に非難。国営タス通信は「近い将来に解決しそうもない深刻な政治的対立」と日ロ関係を評価する専門家の見方を伝えた。(渡辺玲男、黒田理)

2021年10月6日、国後島を望む羅臼沖で行われた「洋上慰霊」