北方領土の話題と最新事情

北方領土の今を伝えるニュースや島の最新事情などを紹介しています。

遠のく北方領土「生きてるうちには駄目だ」元島民の農家らに絶望感

 ロシアのウクライナ侵攻が激化する中、日ロの北方領土返還交渉の一層の膠着(こうちゃく)化が避けられない状況となった。それに不安を募らせるのは、島に住んでいた島民1世の元酪農家や返還運動に尽力する農家だ。元島民らでつくる千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟)によると、元島民の平均年齢は86・5歳(2021年12月末)。生きている間に返還を望む元島民らには絶望感が漂い始めている。(日本農業新聞2022/3/5)

f:id:moto-tomin2sei:20220331115514j:plain

生まれ故郷の国後島を指さす野口さん(北海道羅臼町で、2015年6月)

 「これで当分、交渉事は無理だね」。千島連盟副理事長を務める元島民の野口繁正さん(79)=札幌市=はいら立ちをあらわにする。数年前まで国後島を見渡せる北海道羅臼町で酪農を営んでいたが、長男に経営を譲渡。現在は医療環境の整う同市で暮らす。

 野口さんは国後島出身。旧ソ連軍の北方領土侵攻で、島の平穏な暮らしが奪われた。銃を持った兵士が土足で民家に上がり込み、めぼしい品を強奪。命の危険を感じ1945年10月、監視が緩んだ嵐の夜に船で脱島した。

 当時3歳。「ひどい嵐の夜で船に酔い、苦しくて何度も泣きわめいた」と振り返る。それだけに、泣きながら逃げ惑うウクライナ人の映像に「77年前の俺と重なる。とても見ていられない」と嘆く。

 古里の国後島で旅館を営むのが夢だが「俺が生きているうちは駄目だ。話し合えない以上、島が返ってくるなんて考えられない」と落胆する。

「関心ある人が年々少なく」 秋田の農家・片岡さん

 秋田市で野菜と果樹を栽培する片岡一彦さん(79)は2015年、秋田県自衛隊家族会事務局長として、ビザなし交流で色丹と国後の2島を訪れた。島で暮らすロシア人から「長く住んできた島は私たちの故郷だ」と主張され、島の返還は大変難しいと痛感した。

 30年余り北方領土返還のための署名活動を続ける一人として「年々、領土問題に関心を示す市民が減っている」と吐露する。

 終戦時、1万7291人が暮らしていた北方領土の元島民は、2021年12月末で5532人。秋田からも漁業開拓などで多くの県民が島に渡った。現在県内にいる元島民は23人(同年3月末)。「秋田にもゆかりのある領土。ロシアが侵攻した今だからこそ、四島は日本の固有の領土だと主張しなければならない」と言い切る。

f:id:moto-tomin2sei:20220331115546j:plain