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「ロシアを嫌いにならないで」やり場のない苦悩と葛藤

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 ロシアによるウクライナ侵攻が激化する中、「反ロシア」の感情が世界中で広がっている。圧倒的な軍事力を背景に一方的な主張を押し通そうとするプーチン大統領の決定は許されるものではないが、全てのロシア国民がプーチン氏を支持しているわけではなく、反戦デモも相次いでいる。「私たちも戦争反対だ」「ロシアを嫌いにならないでほしい」―。インターネットなどを通じ、ロシア語教育やロシア文化の発信に取り組んできたロシア人たちは今、やり場のない悲しみと不安に打ちひしがれている。(北海道新聞デジタル2022/3/9)

■ロシアの言語と文化に誇り

 「ロシア語を学ぶ人がいなくなってしまうのではないかと不安だ。自国の言語や文化に誇りを持ち、長年続けてきたことが無駄になってしまう」。ロシア北西部アルハンゲリスク州セベロドビンスク市出身で、2005年からフランスで暮らすタチアナ・クリモワさん(35)は、電子メールでの取材にこう答えた。

 フランス文学を学ぶためにパリに移住し、08年からインターネットの音声配信サービス「ポッドキャスト」や、動画投稿サイト「YouTube(ユーチューブ)」でロシア語学習者向けのコンテンツを配信してきた。日本を含む世界各国に約500人のポッドキャストの有料会員がおり、配信した音声は毎月1万5千回再生されてきた。

 2月24日にロシアがウクライナに侵攻した直後の配信では「ウクライナの友人に合わせる顔がない」と苦しい胸のうちを語り、「多くのロシア人は戦争に反対している」「ロシア人は心ない怪物ではない」と訴えた。ただ「ロシアに対する悪い評価は今後、何年も続くのだろう」との思いは消えない。

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 侵攻後の2月末、フランス・リヨン中心部のベルクール広場で開かれた抗議行動に参加し「戦争反対」を叫んだ。広場には多くの欧州各国の人たちに加え、多くのウクライナ人、そしてロシア人もいた。「私はロシア人です。戦争に反対しています」と書いたプラカードを掲げる同胞の存在を心強く感じた。でも「ウクライナ国歌が流れた時には、自分がロシア人であることに複雑な思いが入り交じり、心が痛んだ」。祖国ロシアで暮らす家族は元気だろうか。ウクライナで暮らす友人たちは無事だろうか。眠れない日々が続いている。

■「ロシアを変える方法がない」

 「1人の人間が、たった1日で、私の、そして多くのロシア人とウクライナ人の将来を奪ってしまった」。ロシア第2の都市サンクトペテルブルク出身で、首都モスクワに住むロシア語教師マクシム・ピメノフさん(33)は、ウクライナ侵攻に踏み切ったプーチン氏に憤っていた。

 マクシムさんもオンラインでロシア語を指導しており、ユーチューブのチャンネル登録者数は5万人超。ロシア国外の有料リスナーからの視聴料で収入を得てきたが、国際的な決済ネットワーク「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からロシアの一部銀行が排除される見通しで、「海外からの送金サービスが今後も利用できる保証はどこにもない。明日が見えず、何も手につかない」とオンライン取材で不安を漏らした。

 

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 ロシアの人権団体「OVDインフォ」は7日、首都モスクワなど69都市で6日に行われた反戦デモで、4900人を超える人々が拘束されたと発表した。同団体によると、ロシアがウクライナに侵攻した2月24日以来、反戦運動で拘束された人は1万3千人を超えた。ただ、マクシムさんは「今のロシアには、政権を追い込めるような世論の団結はない。ロシアを変える方法がない」と嘆く。活動の拠点をロシア国外に移すことも検討しているという。

■「プーチンのロシア」には戻れず

 ロシアでは4日、軍に関する「偽情報」を拡散した場合、最長で懲役15年を科す法律が成立した。「すぐに国外に出たい。出発できるかどうかは、わからないが」。モスクワの北にあるボログダ州にいるロシア人男性(27)は6日、匿名を条件に電子メールで取材に答えた。

 男性は欧州を拠点にフェイスブックや動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の広告を手がけ、ロシアのウクライナ侵攻直前に帰国したばかりだった。ロシア国内は現在、フェイスブックなどの情報は遮断され、国営テレビを筆頭に政府系の報道一色の状態で、男性や若い世代はネット規制を回避できる「仮想プライベートネットワーク(VPN)」を利用して国外のニュースなどを見ているという。「政府はウクライナで起きている真実を国民に知られないようにしているが、若い世代はもう政府系メディアのプロパガンダを誰も信じていない」と強調した。

 出身地のサンクトペテルブルク反戦デモに参加した友人は、連絡が取れなくなった。「おそらく警察に勾留され、スマートフォンを奪われたんだと思うが、何が起きたか確かめようがない」。男性は次に出国したら、プーチン政権が続く限り、ロシアに戻るつもりはないという。「日本人には、ロシア人がみんなプーチンのような人間だとは思わないでほしい。念のため、このメールのやりとりは消しておく。出国する時にスマートフォンを調べられるかもしれないから」

■反対デモ参加「戦争は無意味」

 「今回は逃げられたが、いつかは捕まるかもしれない」。日本への留学経験があり、6日にモスクワでの反戦デモに参加した研究者ニコル・スキアシャンツさん(26)からのメールには、こう書かれていた。デモ参加者は隊列を組んで行進していたが、治安当局は参加者を次々に拘束し、追い払った。危険を覚悟で参加したのは「戦争に反対していること、戦争が無意味なこと、ウクライナとロシアの双方に損失しかないことを表明するため」と話した。

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 ウクライナでは、ロシア軍の攻撃による爆撃で多くの民間人が命を落とし、近隣国への避難民は200万人に達した。「2022年の現代社会において、このような手段で政治問題を解決することがあっていいはずがない」。スキアシャンツさんは「NO」を叫び続ける。(椎葉圭一朗)