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ウクライナ侵攻1週間「交流 諦めるわけには」日ロ緊張、胸痛める元島民

 ロシア軍によるウクライナ侵攻から1週間、停戦の見通しがたたない状態が続いている。「何とかならないものか」「自分たちができることをするしかない」―。北方四島返還を願い、交流事業再開を待ち望む元島民や2世たちは、現在の情勢を複雑な思いで見守っている。(北海道新聞釧路根室版2022/3/4)

 「根室半島沖で2日にヘリの領空侵犯があったが、どうすることもできない。国後や択捉にはミサイルが配備され、簡単に近づけなくなった」。千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟)中標津支部長、舘下雅志さん(62)は、日ロ関係の緊張に胸を痛める。母は国後島の古釜布出身だった。

 ビザなし渡航は新型コロナの影響で2020、21年と全面中止。再開が待たれるが「この状態では当面、墓参、ビザなし、自由訪問とも全て厳しい」と感じる。それでも「元島民の年齢を考えると諦めるわけにはいかない。洋上や上空からの慰霊を提案していくしかないと思う。国に働きかけるほかない」。択捉島民2世で中標津町に住む田中晴樹さん(61)も「ロシア情勢が厳しくても交流をなくすわけにいかない。諦めたら終わり。自分たちができることを続ける」と話す。

 歯舞群島多楽島出身の武隈聡さん(78)=根室市=は「いつコロナが収まるかと待っていたのに。もう島に行けないのではと不安になる」と肩を落とす。

 島には病気などで亡くなった4人の兄姉が眠る。6年ほど前に90歳で亡くなった母は「ごめんね、助けられなくて」と毎日仏壇に向かい、涙していた。「母は亡くなる間際まで『島に行ってね』『頼むね』と言っていた。この遺言が心に残っている」と武隈さん。これまで5回ほどビザなし渡航に参加した。「両政府には(現在の日ロ関係と)人道上の墓参を切り離して議論してほしい。国には地元の思いを分かってもらいたい」と求めた。

 同島出身で千島連盟標津支部長の福沢英雄さん(81)は「ニュース映像で小さな女の子が『死にたくない』と訴えていた。5歳の時、母に手を引かれて逃げたのを思い出し、涙が止まらなくなった。軍人も住民も死んでいって、本当にかわいそう」と犠牲者に心を寄せ、問題終結を願った。別海町の臼田誠治さん(82)=志発島出身、千島連盟別海町支部長=は「日ロ両政府の四島交流の議論は止まり、今回は交流活動はゼロになると思う。でも私たちは交渉を求め続ける。ロシアの人たちは悪くない。戦争が悪いんだ」と話した。(田中華蓮、小野田伝治郎、武藤里美)

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