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北方領土問題、若者も関心を 熊本県内の小中高校生が視察 近さ実感「元島民の思い全国に」

 昨年12月下旬、熊本県内の小中高校生18人が北海道を訪れ、北方領土問題の現状を視察した。独立行政法人北方領土問題対策協会が主催した啓発事業。「この問題に関心を持ってほしい」と訴える元島民らの声に耳を傾け、ロシアの実効支配が続く日本の領土を目に焼き付けた。(熊本日日新聞/2022/1/19)

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ソ連軍が北方領土に上陸した当時の状況を振り返る元島民の河田隆志さん

 初日の25日に向かったのは、根室湾に近い根室市の道立北方四島交流センター。かつて歯舞群島多楽島[たらくとう]に住んでいた河田隆志さん(85)が、1945年の終戦時を振り返った。

 ソ連軍(当時)が島に上陸してきたのは、日本が無条件降伏した直後。「ソ連兵が上陸したら島民はひどい扱いを受ける」とうわさが流れ、多くの島民が島から脱出した。しかし、河田さん一家は「ここは俺たちの島だ」と住み続けた。幸いにもソ連兵から手荒な扱いを受けることはなく、一家は終戦から約2年間、島で暮らし続けた。

 「ソ連兵は休日にわが家を訪れ、よくおしゃべりをしていた。島を出る際は『頑張って勉強しろよ』と学校の机をくれた」。河田さんは熊本の児童生徒に、実効支配は国からの命令であって、個々のソ連兵が悪い人間ではなかったことを伝えたかったという。

 東海大星翔高2年の坂本尚輝さんは「授業で教わらない、細かな部分まで話を聞くことができた。河田さんの思いが日本全体に広がればいい」と願った。

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道立北方四島交流センターで職員の説明を聞く熊本県の児童生徒

 交流センターでは、根室高の北方領土研究会に所属する生徒2人も現状を説明した。2人が強い危機感を示したのは、北方領土問題に対する若者の関心の低さ。祖父母や両親の世代が続けてきた返還運動が結実しないことも背景にあるといい、「皆さんも問題解決に向けた発信者になってほしい」と呼び掛けた。交流センターでの学習を終え、九州学院高3年の宇佐美まいさんは「ロシアのことを積極的に知ることが大切だと実感した」と語った。

 翌26日は根室半島納沙布岬を訪れた。納沙布のこの日の最高気温は氷点下1・9度。空は鉛色だった。肉眼でも見える北方領土のうち、最も近い歯舞群島貝殻島までは波打つ海を挟んでわずか3・7キロ。児童や生徒からは「こんなに近いんだ」と驚く声が漏れた。

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納沙布岬から歯舞群島を眺める熊本県の児童生徒。この日は肉眼でうっすらと確認できる程度だった=2021年12月、北海道根室市

 納沙布岬にある北方領土問題対策協会の啓発施設・北方館では、副館長の清水幸一さん(66)が貝殻島で盛んなのはコンブ漁だと教えてくれた。ただ、日本人は自由に近づけず、ロシア側に多額のお金を払って許可を得て漁をしているという。

 27日は摩周湖観光を経て知床半島羅臼町へ。翌28日に羅臼町役場を訪問し、湊屋稔町長(58)と千島連盟羅臼支部の鈴木日出男支部長(69)の話を聞いた。鈴木支部長は「羅臼町に住む元島民は徐々に減っており、今は支部会員の約7割が元島民の子や孫だ」と元島民の高齢化について説明。湊屋町長は「みなさんのような若い世代に、元島民の思いを受け継いでほしい」と伝えた。

 研修を終えた白川中1年の緒方悠真さんの感想は「北方領土は想像より大きく、近かった」。社会科教師を目指す東海大星翔高2年の瀨上忠佑さんは「自分が教師になった時、この経験を生徒たちに語り継ぎたい」と語った。県北方領土対策協会の山下剛理事長(56)は「参加者が家族や友人に体験を伝え、返還運動が熊本にも広がるよう期待したい」と切望した。(野村拓生)

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北方領土青少年等現地視察 北方領土問題を巡る国民世論の啓発や調査・研究を担う独立行政法人北方領土問題対策協会は問題の現状を知ってもらうため、2012年度から各都道府県の青少年を定期的に現地へ派遣している。今回、熊本県内からは小学5年から高校3年まで18人が参加し、昨年12月25~28日の日程で根室市羅臼町などを訪れた。