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<ビザなし交流30年>日本側第1陣参加 島の住民と泣いた 萬屋努さん

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■島の住民と泣いた 萬屋努さん(79)=歯舞群島多楽島出身、根室管内中標津町在住

 最初の訪問地、国後島の古釜布に着いたのは夕方でした。明け方に目覚めて、古釜布湾から朝焼けの街並みを見たの。震えたね。「これがふるさとだ」って。

 私は国後島生まれじゃないんだよ。でも四島がふるさとだという思いだったから。昔懐かしさと、驚き、うれしさが交錯した気持ちは30年たっても、どれだけ時間がたっても忘れません。絶対に。

 どの島でもロシア人住民は歓迎してくれました。一番思い出に残っているのは、最初のころに択捉島で会った30歳すぎの女性です。彼女は親の代に島に来た2世で「ここは私の生まれた島。親のお墓もある。ほかに行くところがない」と言うんです。元島民と同じような境遇で、お互いに被害者意識みたいなものが芽生えてね。2人で泣きました。そして「平和条約が結ばれたら、仲良く一緒に暮らそう」と約束しました。

 その後、ビザなし交流で行き来し、家族ぐるみのつきあいをしています。誕生日には毎年、電話をもらいます。彼女が私の孫の運動会に来てくれたこともあります。ビザなし交流が始まって30年、島生まれのロシア人と日本人は仲がいい。特にビザなし交流に参加した人ほど親日的です。

 一方でビザなし交流は領土問題の解決に寄与するものとして始まりました。相互理解が深まっているのに、返還につながっていない。結局、領土問題は外交問題です。政治が悪いのではないか。しっかりと領土交渉を進めてほしい。(北海道新聞2022/1/3)

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