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領土問題、忘れたのか 論戦低調、元島民に焦り ロシア強硬 交渉は停滞<衆院選 声は届くか>

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 北方領土交渉が停滞感を強めている。31日投開票の衆院選は、事実上の2島返還路線へとかじを切った安倍晋三元首相の対ロシア外交の評価が問われる初の大型選挙だが、28日に道内入りした安倍氏は街頭演説で北方領土問題に一言も触れなかった。「政治は北方領土問題を忘れてしまったのか」。四島返還の基本方針を転換した総括もなく、与野党間の争点にもならない現状に、元島民は焦りといらだちを強めている。(北海道新聞全道版2021/10/29)

 「絶対に負けるわけにはいかない。力を結集してほしい」。安倍氏は28日、千歳、札幌、苫小牧の3市で演説し、自民党候補への支援を訴えた。ただロシアのプーチン大統領と通算27回の首脳会談を重ね、首相在任中に「終止符を打つ」と訴えてきた北方領土問題への言及は一切なかった。

 2018年11月のシンガポールでの日ロ首脳会談で、安倍氏は平和条約締結後の歯舞群島色丹島の日本への引き渡しを明記した日ソ共同宣言を交渉の基礎に位置付け、事実上の2島返還へとかじを切った。しかし、ロシアは強硬姿勢を崩さず、交渉は停滞。安倍氏の突然の辞任を受け、昨年9月に政権を引き継いだ菅義偉前首相はコロナ禍の影響もあり、一度もプーチン氏と会えないまま退陣した。

■ビザなしは中止

 「交渉はストップした。四島返還は遠のいてしまったのではないか」。元島民団体「千島歯舞諸島居住者連盟」(千島連盟、札幌)の脇紀美夫理事長(80)=根室管内羅臼町=は、ため息をつく。

 故郷の国後島は、同町の展望塔からわずか約25キロ。晴れた日には島影がはっきり見えるが、ビザなし渡航はコロナ禍で2年続けて中止され、墓参りにも行けない状態が続く。一方、ロシアでは昨年7月、領土の割譲禁止を明記した改正憲法が発効。プーチン氏はクリール諸島(北方領土と千島列島)に新たな免税制度も導入する方針で、ロシアは実効支配を強めている。

 「安倍さんには熱意があり、交渉が動くかもと期待した。ただ、四島返還の願いを捨てるつもりはない」と脇さんは言い切る。安倍政権が進めた対ロ交渉の内実については「国からは何の説明もない」。22日に道内入りした岸田文雄首相も「ロシア外交は難しい」と述べただけだった。

 「正直、政治家には何も期待できない。2島だけでも返れば海が広がると思ったが、交渉は後退が続くのではないか」。根室市の落石漁協前組合長の中野勝平さん(79)は、衆院選北方領土問題が話題にさえ上らない現状を嘆く。

■拿捕や臨検急増

 日ロ政府間協定に基づく「安全操業」で、北方四島周辺水域でのタコ漁に従事してきた。安全操業は互いの管轄権に触れない形で行われてきたが近年、ロシアによる拿捕(だほ)や臨検が急増。19年12月には根室のタコ漁船5隻が拿捕され、中野さんの息子も国後島に連行された。中野さんは「ロシアは年々監視を強めている。今後も厳しい操業が続くだろう」と懸念する。

 終戦時に四島に住んでいた1万7291人の元島民は今年9月末には5572人まで減り、平均年齢は86・3歳に達した。国後島出身の宮谷内(みやうち)亮一さん(78)=根室市=は祈るように言う。「領土交渉が進まず、ふるさとの島に行くこともできず、元島民は閉塞(へいそく)感を強めている。国は一歩でも交渉を前に進めてほしい」(武藤里美、村上辰徳)

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