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択捉島の太平洋岸 砂に沈んだ船を警備して4年間も1人で暮らす「クリルのロビンソン」

 択捉島の太平洋岸の砂浜で座礁したまま砂に埋もれているタグボートコランダム」の警備員として、近くのトレーラーでただ1人、ロビンソン・クルーソーのように4年間も暮らしている男がいる。セルゲイは孤独に慣れてしまい、妻が暮らすウラジオストクに戻る準備ができないでいる。セルゲイはどのような日常を送っているのか--。(サハリン・クリル通信2021/10/14)

 2015年の嵐の日、タグボート座礁した。1993年韓国で建造され母港はウラジオストク。船主はタグボートを海に戻そうと繰り返し試みたが、今では船尾が2mも砂に埋まってしまった。船がスクラップになる前に船主は保険金を受け取りたいと望んでいる。「キャビンにはまだかなりの量の金、銅、その他の貴金属がある。誰かがすべてを守る必要があったし、船主を失望させたくなかったので、ここで働くことに同意した」とセルゲイは、タグボートの側で警備員として暮らすことになったいきさつを語った。

 月に50万ルーブルの給料が与えられ、妻はウラジオストクにいる。娘は結婚して海外で生活している。タグボートを見張るため、側にトレーラーと携帯電話が用意された。金属ハンターに装備が奪われないようにタグボートを監視するのが彼の仕事だ。彼は操舵室のさびたドアに巨大な錠をかけた。ある晩のこと。操舵室で灯りがちらついているのが見えた。2人の兵隊が鍵を壊して侵入し歩き回っていたのだった。

 やることといえば、1日2冊の娯楽本を読むこと。テレビをつけると決まって1つのチャンネルだけが映し出される。目の前に広がる太平洋のように波がザーザーいっている画面だ。それと相棒はクリリアン・ボブテイルの猫1匹。ネズミがうじゃうじゃいて、スープの皿に落ちてきそうなくらいだったので、当局にネズミのワナを頼んだら、猫が届いた。尻尾が極端に短いクリル諸島の在来種で、ムシャと名付けた。彼女は毎日、ネズミを獲り、ついには一匹もいなくなった。時には、クマがトレーラーの周りをうろつくこともある。

 「ここの暮らしは心理的にかなりきつい。人間の話し方を忘れるんじゃんいかと恐れるくらいだ。よく海岸沿いを歩いて自分と話すことにしている。そして歌をがなり立てるんだ」と、一人ぽっちの警備員は告白した。彼はちょっとしたビジネスを思いついた。観光ブームの択捉島にやって来る観光客に船内を見せて、入場料を取り出したのだ。しかし、それも観光客らがインスタグラムに投稿したことで、船主の知るところとなり、あえなくとん挫した。警備員は、本土に戻るのを急いでいないことを認めている。彼はタグボートの隣で少なくとももうひと冬過ごすことを計画している。なぜなら、2か月ごとに船がやって来て「クリルのロビンソン」に必要なものを供給してくれるし、海は薪となる流木を岸に投げてくれるからだ。

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