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「国後から来た」なら「国内移動」 ロシア人男性処遇に日本政府苦慮 標津で保護1週間

 北方領土国後島から来たというロシア人男性が根室管内標津町で保護され、26日で1週間が過ぎた。日本への亡命を求めているとされるが、事情を聴いている札幌出入国在留管理局(札幌入管)は詳細を明らかにしておらず、渡航方法も不明のままだ。北方四島を「固有の領土」とする日本政府の立場に沿えば、男性は国内を移動したに過ぎず、日本の法的立場を害さない形で男性をどう処遇するか苦慮しているとみられる。(北海道新聞2021/8/27)

 「こういう事態は想定していなかった」。日本外務省関係者は、取材にこう打ち明けた。

 男性は19日夕に標津町で道警が保護。日本政府関係者によると男性は38歳で、国後島から泳いできたとして「日本に亡命したい」と話しているという。

 同町の国道沿いの防犯カメラには19日午前8時ごろ、男性とみられる人物が紺色の服を着て歩く姿が写っていた。その1時間半後には同じ服装の男性が近くの量販店で服や靴、リュックサックなどを日本円で購入。店員は「ジェスチャーでやりとりしたが、不審な様子はなかった」と語った。

 ロシアメディアなどによると、男性は3年前にロシア中部イジェフスクから国後島泊(ゴロブニノ)近郊に移住。ウエットスーツを着て約24キロを泳いで渡った可能性が報じられたが、真偽は不明だ。国後島で男性に日本語を教えていたという友人は、地元メディアに「彼は日本に憧れ、ビザなし交流で札幌へ行こうとしたが参加できなかった。その後、コロナ禍でビザなしが止まった」と語った。

 日本政府は、四島在住ロシア人の日本本土への訪問は、双方の法的立場を害さない形で実施しているビザなし渡航の枠組みに限って認めており、入国ビザを発給していない。あくまでも日本国内の移動という立場で、ロシア人が勝手に北海道本島に上陸するような事態は想定外だった。「事実関係をよく確認の上、適切な対応を図っていきたい」。加藤勝信官房長官は23日の記者会見で、男性の処遇などについて回答を避けた。

 外務省関係者は、男性について「そのまま四島に戻ることは認められないが、出国してしまえば後は分からない」と述べ、男性が四島在住かどうかを曖昧にしたままロシアに帰国させる考えを示唆。官邸筋も、男性を「ただの不法在留ロシア人」として扱う考えを示しており、政府の対応が注目される。(ユジノサハリンスク 仁科裕章、中標津支局 小野田伝治郎、東京報道 荒谷健一郎)

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標津町の国道沿いの防犯カメラに写ったロシア人男性とみられる人物=19日午前8時(住民提供)

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