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択捉島に配備されたS-300V4 千島列島を『要塞』化 潜在的脅威から本土を守る

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NIKKEI ASIA 2020/12/16 

 ロシア軍は2020年12月1日、日本が北方領土と呼ぶ島々の1つ択捉島にS-300V4を配備し稼働させた。日本の最北端の島、北海道の玄関口に最新のミサイルシステムを突き付けたのだ。東京は即座に「容認できない」と非難した。モスクワはここ数年、北東アジアにおける軍事プレゼンスを強化してきた。米国に対抗するため、太平洋艦隊に新造船を就航させ、兵器や装備をグレードアップするとともに、中国との軍事協力を拡大してきた。

 ミサイル配備は、2020年9月のロシア国防相セルゲイ・ショイグの「極東の軍隊は年末までに500ユニット以上の近代化された新しい装備を受け取るだろう」との発表を受けたものだ。「東部の軍事的、政治的状況は依然として緊張している」と、ショイグは述べた。「東部軍管区は、新たな脅威を阻止するため、極東の軍備を一貫して強化している」--。

 2016年以降、極東のロシア軍は3,700ユニット以上の新しい兵器と軍事装備を受け取った。公開されているデータによると、ミサイルや大砲から戦闘機、戦車まであらゆるものが含まれている。

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 同様に2018年、ロシア国防省は2027年までに、新たに70隻の軍艦を太平洋艦隊に導入すると発表。新型コロナのパンデミックによる生産の減速にもかかわらず、艦隊は2020年末までに15隻の新造船を受け取る。

 ロシア極東連邦大学のアルチョム・ルーキン教授(国際関係学)は「近年、ロシア国防省が極東に配備した兵器システムを見ると、海と空からの脅威を撃退することを目的としていることが分かる。それは中国からの脅威ではない。我々はアムール川を越え侵略してくる中国を撃退する準備はしていない」とし、「日米の脅威を封じ込めることを目的としている」

と続けた。

 ロシアとアメリカの軍隊はオホーツク海で数多くの緊迫した場面に遭遇している。近年のベーリング海日本海で両国は、国境近くで挑発的な海軍、空軍のパトロールを実施しており、互いに非難を繰り返している。

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 最近では昨年11月下旬に、米海軍の駆逐艦USSジョン・マケインが、ロシアの主要な港湾都市ウラジオストクに近い水域を航行した。ロシアはここを領海とみなしているが、米国は認めていない。マケインを確認した後、ロシア太平洋艦隊は駆逐艦ヴィノグラドフを派遣し、米艦隊がその地域を離れるよう圧力をかけた。「マケインは撤退した」とロシア国防省は報告したが、米国は否定している。

 米ロ両国の緊張を高めているもう一つの要因は、米国がアジアで配備を進めるミサイルにある。専門家によると、米国の極東でのミサイル配備の動きが、ロシア軍事指導部に北東アジアをさらに重視するよう促す結果となった。

 日本の航空自衛隊の元空将補である林吉永氏は「ロシアは自国の領土に到達する可能性があるミサイルを日本に配備するという米国の動きに先んじようとしているかもしれない」と語る。林氏は、イージス・アショアミサイル防衛システムに対する日本の関心がモスクワの懸念に拍車をかけたと付け加えた。「イージスアショアは防御システムだが、どんなミサイルも攻撃的な武器になる可能性がある」と説明した。

 日本はイージス・アショアの陸上システムの導入計画を破棄したが、最近、イージス・アショアを装備した2隻の軍艦を建造する方向に転換した。こうした状況の中で、ロシアはクリル諸島(千島列島)の防衛を強化している。近年、新しい沿岸ミサイルシステム、レーダーステーション、戦闘機、ドローン、戦車など武器や装備を更新している。軍はまた、島に飛行場を建設し、海軍基地の造成に取り組んでいると伝えられている。

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 しかし、S-300V4は、これまで導入された中で、最も高度なシステムである。極超音速ミサイルを発射し、最大400kmの範囲と最大37kmの高度にあるターゲットを攻撃することができる。また、最大24の空中ターゲットを同時にインターセプトできる。さらにS-300の古いタイプと異なり、移動式である。

 ロシアの軍事アナリストであるアレクセイ・レンコフ氏は「S-300V4を配備することでロシアはクリル諸島を『要塞』に変え、本土への潜在的な脅威を取り除きたいと考えている。

 ロシアは現在、国境の周りに沿って層状防空システムを確立するというプログラムを遂行している」とレンコフは述べた。「S-300V4は、そのための重要なコンポーネントの1つだ。弾道ミサイルや、巡航ミサイル戦略爆撃機偵察機などの航空機を標的とするフロンティア防衛システムだ」--。

 ロシアのプーチン大統領は中国との軍事同盟について「かなり可能」であると述べた。2012年以来、モスクワと北京は日本海黄海東シナ海で定期的に海軍の合同演習を実施している。2018年9月にはボストーク2018に参加するために、数千人の中国軍と数百台の戦車がシベリア東部に到着し、冷戦以来、ロシア最大の軍事演習となった。その後2019年7月、ロシアと中国は日本海上空で初の合同爆撃哨戒を実施した。

 共同作戦と同盟の話がただの騒ぎ以上のものであることに懐疑的な人もいます。「ロシアは中国と提携することで米国に挑戦することができるが、ロシアではまだそのような提携に対する支持はあまりないと思う」と林氏は述べた。

 しかし、ルーキン教授は、北東アジアでロシアと中国の海軍は協調できると主張した。中国には世界最大の海軍があり、一方のロシアは大胆で経験豊富で、海上で米国に挑戦することができる。「私たちはロシアと中国が合同で海軍を編成するというシナリオを想像することができる。中国が物的資源と船を提供し、ロシアは大胆さを必要とする軍事作戦を遂行することにある」--。(ディミトリシムズ)