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千島列島の先史―戦後、詳細に 20年がかりで札大・川上淳教授が「千島通史の研究」出版

北海道出版企画センターの野澤さんから「千島通史の研究」が届きました。札幌大学の川上淳教授が前職の根室市博物館開設準備室(現・根室市歴史と自然の資料館)の学芸員時代から20年の歳月をかけて完成させた711ページに及ぶ労作、大著です。

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北海道新聞電子版(2020/12/19)

 川上淳・札大教授が「千島通史の研究」(北海道出版企画センター)を出版した。千島列島の先史時代から第2次大戦直後までを記述した国内で初めての通史。前職の根室市学芸員時代から20年かけて完結した労作だ。北方領土問題やアイヌ民族問題を考える上でも貴重な資料になりそうだ。

 千島列島の旧石器時代から始まり、オホーツク文化期、アイヌ文化期、近世、江戸幕府、近代の明治、大正、昭和、そして第2次大戦、戦後のソ連軍による占領へ至る歴史を記述した。

 この間、和人に抑圧されたアイヌ民族が蜂起した「クナシリ・メナシアイヌの戦い」や、日露の初の条約である日露通好条約、樺太千島交換条約、同条約を受けた千島アイヌ色丹島への強制移住など主要な事件、出来事を多くの史料を示しながら書いている。

 根室市北方領土返還運動の原点の地だが、「返還運動に進展がないのは、千島の正確な歴史認識がないことも一因ではないか」と思ったのがきっかけ。2001年、根室市博物館開設準備室(現・根室市歴史と自然の資料館)の定期研究論文誌に連載を開始し、今年完結した。出版にあたって新しい研究成果を一部、追加した。

 川上教授は「千島の歴史をできるだけ詳細に書いてみた。今後の千島史研究のたたき台になれば」と語る。

 戦前・戦後の千島史に詳しい黒岩幸子岩手県立大教授は「領土問題によって偏った見方をされがちな千島を、歴史家の冷徹な視座で捉え直し、列島の全体像を時系列で浮き上がらせた画期的な著書。関係資料が網羅されており、今後の千島研究の進展にも寄与するだろう」と評価している。

 本はA5判、全712ページ、9900円(税込み)。道内主要書店で販売中。問い合わせは北海道出版企画センター(電)011・737・1755へ。(本田良一)

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