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北方領土遺産『千島電信回線陸揚庫』…③流氷による断線事故相次ぐ

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流氷による断線障害続発し、ルート変更

〇…死者6人の犠牲を払って完成させた悲願の千島電信回線だったが、1899年(明治32年)2月と3月に相次いで障害が発生する。原因究明と修理のため派遣された西方技手は沖縄丸に乗船して7月30日に根室入りした。翌日、野付水道に向かい、標津村陸揚地から障害地点を調査した結果、国後島ノツエト岬の陸揚地から1km沖に問題があることが判明。海底線を引き揚げてみると流氷によって断線したものと分かり、とりあえずの応急措置として国後島側の3.32kmを新線に張り替えた。

〇…国後水道ではアトイヤ岬の陸揚地から約1km地点で障害が見つかった。電信線は強い力で捻じ曲げられ、ところどころ擦り減った状態だった。これも流氷による断線だった。当時の報告書には「流氷はサガレン島付近に生じ、北風のため常に南方に流され、日本海より来る潮流により方向を東南に転じ、野付水道、国後水道に分流す。ゆえに国後島択捉島の北西岸は流氷の衝に当たり、全水道を閉塞するに至る。大なるものは水面下6、7尋(約11m-13m)に達するものあり」と記されている。

〇…これではいくら修繕しても流氷の時期になると常に断線するおそれがあるため、陸揚地を変更することになった。両水道のルートは出来るだけ東南岸の水深が深い場所にする必要があった。国後水道のアトイヤ側は、岬の西南12kmにある白糠泊が位置、地勢ともに最適と分かり、択捉島側の丹根萌と結ぶことに決定した。1899年(明治32年)8月14日、22.88kmを新たに敷設した。

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国後島択捉島を分かつ国後水道に流れ込む流氷

 

新ルートは根室ハッタリ-国後島ケラムイに決定

〇…野付水道のルートは3つの案が検討された。第1案は根室半島ノサップ岬-国後島泊村ニオイ、第2案は根室西別-国後島ケラムイ、第3案は根室村ハッタリ-国後島ケラムイだった。この3ルートを測量した結果、国後島側はケラムイ一帯が砂地で水深18m、海底は平たんであり最適と分かった。根室村ハッタリは西北に面して小さな湾を形成しており、底は砂地で適当な水深があった。また距離が最短であることも考慮され、第3案に決定した。

〇…西方技師は「新ルートの海底線は、明年1900年(明治33年)沖縄丸回航の時、敷設見込みであるが、今回修繕した国後・標津間は海底岩礁にして水深浅く、今冬も再び流氷のために損傷を受けることは免れぬと思う。破損すれば廃止する」と語った。果たせるかな、1900年3月9日に流れ込んだ流氷により海底線は断線した。流氷の時期、択捉島は電信線創設以来3年連続、国後島は2年連続して通信不能となった。

〇…根室村ハッタリ-国後島ケラムイ間に敷設する海底電線はイギリスに注文してあった。沖縄丸による敷設作業は1900年(明治33年)9月29日完了した。新たな海底線は2心入り1条で長さは38.17kmだった。これにより、標津村三本木-国後島ノツエト岬の海底線は敷設からわずか3年で廃止となった。

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国後島ケラムイ(左側)と白糠泊(右側)にあった陸揚室(いずれも昭和10年撮影)

 

ソ連軍四島占領、スパイ活動を恐れて根室側から海底線切断

〇…根室村ハッタリ-国後島ケラムイ、国後島・白糠泊-択捉島・丹根萌の2つの海底線でつながった千島電信回線は、択捉島の最北端蘂取郵便電信局に通じる重要な電信線として、1945年(昭和20年)のソ連軍による北方四島占領まで、45年間存続した。

〇…「北海道の電信電話史」(北海道電気通信局編1964年刊)によると、本道と北方四島の通信は2つの海底線で結んだ千島電信回線と根室択捉島・紗那間の無線電信により行われていたが、1945年(昭和20年)8月28日にソ連軍が択捉島に上陸、留別郵便局の接収に始まり、9月8日の紗那郵便局の接収によって通信は完全に途絶した。その後、根室ハッタリ-国後島ケラムイの海底線は、スパイ活動や赤化工作に利用されるおそれがあるとして、根室側の陸揚庫の立ち上がりから切断され、海中に棄却された。

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根室ハッタリの陸揚庫の裏側。地上部分から海に向けて敷設当時の電信線が延びていた

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1999年(平成11)に、ホタテ漁に支障を来すことから海底ケーブルの一部1500mが引き揚げられた。インタホンをつなぐと、電信線は生きていた。根室海峡と国後水道の海底には今も電信線が横たわっている。