1936年(昭和11年)に国後島でロケを敢行し、同年6月に公開された内田吐夢監督の映画「生命(いのち)の冠」は、戦前の国後島の情景を映像として今に伝える、おそらく唯一の映画である。
<作品概要>
❐監 督 内田吐夢
❐キャスト 有村恒太郎=岡譲二 有村の妻・昌子=滝花久子 有村の弟・欽次郎=井
染四郎 有村の妹・絢子=原節子(当時、デビュー2年目の15歳)
❐脚 本 八木保太郎
❐原 作 山本有三
❐公開年月日 1936年(昭和11年)6月4日
❐上映時間ほか モノクロ/サイレント(無声、活動弁士版)/55分
<あらすじ>
物語の舞台は国後島・古釜布にあった蟹缶詰工場(碓氷缶詰古釜布工場)。不漁続きの上に、蟹を獲っていた漁船の遭難も重なり、経営か悪化していく中、輸出先の英国の会社との契約を守るため、破産を覚悟で、契約通り品質にこだわった一等品の缶詰を製造し、ついには工場を手放すことになる経営者家族の葛藤を描いた作品。
<作品の特徴>
主演の岡譲二らロケ隊一行が国後島に渡ったのは、昭和11年4月頃。撮影では、碓氷缶詰古釜布工場の女工さんや蟹漁に携わる漁師たちがエキストラで出演。荒波にもまれながらの蟹漁の様子や工場内での缶詰の製造工程などもドキュメンタリー的に紹介されており、当時、外貨獲得の花形産業といわれた蟹缶詰産業の貴重な映像資料にもなっている。
また、映画の中では、吹雪の中の古釜布の家並みや雄大な雪原、漁船が出入りする港や流氷が打ち寄せる海岸の風景などが随所に織り込まれ、80年以上前の国後島の情景が記録されている。